5月の法話『ありのままを生きる』 願成寺住職 中川詳心師
『ありのままを生きる』
願成寺 中川詳心
新緑の清々しい季節となりました。大本山永源寺境内のもみじやエイゲンジザクラもいっぱいに若葉を開いています。その少し頼りなくも懸命に葉を広げている植物たちの姿を目にするたびに、私も自らを顧みて初心に立ち返りまっすぐに生きなくてはと思いを新たにします。このように花や木々は私たちに季節の訪れを教えてくれると共に、私たちの心にもたくさんの気付きを与えてくれます。
「柳は緑 花は紅(やなぎはみどり はなはくれない)」
という禅の言葉があります。柳は緑色で花は紅色という、目の前のごく当たり前なありのままの姿を表現した言葉です。しかし、この禅の言葉は「ありのまま」の姿こそが最も自然で美しく尊いと示して下さっています。そのままの姿こそが、その人やその物がそれぞれに持つ真実の姿であり、人間ならばその人間らしさなのです。
私は今、広島県の願成寺というお寺をお預かりしています。四年前のこと、お檀家様がお亡くなりになられたご連絡を頂き、ご自宅へ枕経に伺いました。故人様のお顔を拝した後枕経のお経を唱え始めると、私は故人様との思い出が様々に蘇り悲しさのあまり、まともにお経も読めないほどに涙をこぼしてしまいました。その時私は、和尚としての勤めを果すことが出来ない自分が、情けなくて仕方ありませんでした。それから一年後、その方の一周忌の法要後のお斎の席で私は、ご遺族の方に枕経の席での失態を改めて深くお詫びしました。するとご遺族から「和尚さんが涙を流してくれて嬉しかった」という、思いもよらない言葉が返って来ました。また続けて「和尚さんの人間らしさを感じることが出来て良かった」とのお言葉も頂きました。私はこの頂いたお言葉によって、私自身が「和尚として」の立場にこだわり過ぎていたことに気付きました。
私たちは、自分の立場を考えたり、また相手に良く思われたいなどの様々な「はからい」を持ってしまいます。このはからいが私たちを迷わせ苦しめています。花や木々はそのはからいなしに、今を生きることに精一杯いのちを輝かせています。私たちもご紹介した禅の言葉「柳は緑 花は紅」のように、ありのままを生きて行きたいものです。しかし、ありのままだけではこの世の中では生き辛いことも事実です。まずは自らを見つめ、自分本位な「はからい」に気付くことから始めてみてはいかがでしょうか?私も一人の人間としてさらに精進いたします。
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