境内案内

国道４２１号沿い、門前を流れる愛知川にかかる赤い欄干の大橋。 旦度という名前は、かつてこの付近に旦過寮（たんがりょう：入門者が宿泊する堂）があったことからで、「旦を渡る」の意味。

永源寺の裏山から愛知川にそそぐ『蟠桃渓（ばんとうけい）』にかかる。大正８年（1919）に掛け直された。 古記には「ここに『大歇亭』があったが失われ、橋の名前として残った」と伝える。ここを渡れば境内霊域に入る。

羅漢坂の中程にたたずむ、メガネをかけおだやかにほほえむこの石仏は、交通事故に逢い修行半ばで世を去ったある雲水（修行僧）の供養のため、遺族の方によって建立された。生前の姿と雲水装束を模して造られている。

大歇橋を過ぎると１２０段あまりの石段が待ち受ける。 段を上がりきった岩崖には、釈迦三尊と十六羅漢の石仏が出迎える。これらの石仏群はもともと境内各所にあったが、ここに集められた。正確な年代は不明だが、江戸期のものと思われる。

彦根藩第四代藩主、井伊直興（なおおき）公と７名の奥方をまつる霊廟。 日光東照宮改修総奉行、幕府大老などを歴任し領内に玄宮園を拓くなど、彦根藩中興の名君と讃えられる直興公は、晩年、永源寺８６世・南嶺慧詢禅師（なんれいえじゅん）に参禅して親交を結び、遺言により永源寺に墓が建てられた。かつて公の命日には、彦根から藩主が廟参に訪れたと伝えられている。
※霊廟内への立入はできません。

境内最初の看門、料金所。 現在の門は延享７年（1746）に再建された。 門の右側にある石碑は結界石（けっかいせき）と呼ばれ、「不許酒肉五辛入門内（酒肉、五辛は門内に入ることを許さず）」と刻まれている。 手前にある大きな手水鉢は「耳」の形を模しており『洗耳水』と称する。 「仏道を求める者は、耳にこびりついた世俗の考え方を洗え（捨てよ）」という意味がこめられている。

眼下を流れる愛知川は、鈴鹿山系に端を発し琵琶湖へと注ぐ一級河川である。 古くは『雷渓（らいけい）』と呼ばれる暴れ川であったが、永源寺が開かれた後はおだやかになり、『音無川（おとなしがわ）』と呼ばれるようになったと言われている。

「三解脱門（さんげだつもん）・三門」ともいう。五間三戸、二階建ての大門である。 享和２年（1802）７年の歳月をかけ完成。 平成１０年（1998）に、基礎の補強などをふくむ大修理が行われた。 楼上には釈迦三尊（釈迦如来・月蓋長者・善財童子）と十六羅漢を祀っている。 この釈迦如来は螺髪（らほつ）ではなく、結髪に宝冠を着けているが、これは「宝冠の釈迦」と呼ばれ、大日如来と同体と見る。禅宗寺院ではしばしば見られる形態である。
※登楼はできません

庫裡とは、寺院の台所や書院、寺務所などを合わせた建物をさす。安永５年（1776）に再建されたが、老朽化のため昭和55年（1980）現在の建物に改築された。鉄筋コンクリート二階建て、永源寺派宗務本所・文化財収蔵庫・研修道場などを内包している。

方丈とは「一丈四方（約３×３ｍ）」の意で、住職の居住する小庵をいうが、現在は本堂や書院をかねた大建築もこう呼ぶ。 当山の方丈は『安心室（あんじんしつ）』と号し、本尊 世継観音をお祀りする。大屋根は琵琶湖のヨシ（葦）で葺かれており、約１０年ごとに葺替えを行っている。 現在の建物は明和２年（1765）井伊家の援助により建立され、以後何度かの改築が行われている。 正面には『瑞石山』の山号額が掲げられているが、これは開山 寂室禅師の筆である。 石に「丶（てん）」が打たれているのは、「角のある石・割石」の意味があるそうです。

『大雄宝殿（だいゆうほうでん）』と号し、本山古例の法要を行う仏殿も兼ねている。亨保１３年（1728）の建築である。 正面の須弥壇には、後水尾天皇の御寄進による釈迦如来・迦葉尊者・阿難尊者（かしょう・あなん）の三尊を安置する。 また、左奥を祖師堂（そしどう）：達磨大師など禅宗歴代の祖師を祀り、右奥は土地堂（つちどう）：火徳星君など伽藍を守護する護法神をまつる。

『華鯨楼（かげいろう）』と称する二層袴腰（はかまごし）の鐘つき堂。 幾たびもの焼失をへて、安永元年（1772）に再建された。平成１５年（2003）に大修理を行った。 梵鐘は戦時供出され、昭和２３年（1948）に再鋳されている。

『木衆堂（もくしゅどう）』と号し、修行僧が日夜坐禅研鑽・行住坐臥の日常を過ごす堂。 その生活は起床から就寝まで一糸乱れぬ集団行動、しばらくも安堵の時はない。 「単（たん）」と呼ばれる一人分のスペースはわずか一畳、衣や経本など最低限の持ち物を窓際の地袋に収納するなど、『起きて半畳、寝て一畳』を体現している。 亨保９年（1724）に焼失し、以来長らく法堂を代用としていたが、昭和８年（1933）、四方に化縁し再建された。 このときの寄進者には、わが国女優の最初といわれる川上貞子（さだやつこ）のお名前がある。

別名を『勝山社（かつやましゃ）』と称し、「若一王子（にゃくいちおうじ）」を祭祀している。 「死後、わが国仏法の守護者とならん」という、開基 佐々木氏頼公の遺言により造られた。

『大寂塔（だいじゃくとう）』といい、開山 寂室禅師の墓所の上に建てられている。 現在の建物は、井伊直惟公（なおのぶ）より能舞台の寄進を受け、改築したものと伝えられる。 堂前には「大寂」の扁額（へんがく）が掲げられているが、日本黄檗宗の開祖 隠元禅師の筆である。これは隠元禅師が中峰明本（寂室禅師が中国で師事した高僧）の法孫にあたることによるご縁である。

転輪蔵（てんりんぞう）式の経蔵で、『毘盧寶蔵（びるほうぞう）』と号す。現在の建物は延宝４年（1676）のもので、南嶺禅師が明（中国）より購入された大蔵経をおさめている。正面には転輪蔵の考案者である傅大士（ふだいし：中国梁代の人）と、その子である普建・普成（ふけん・ふじょう）の二童子がまつられている。

禅堂から標月亭・含空院を結ぶこの内回廊は、平成１７年（2005）修行僧が観光繁忙期にも静かに往来できるようにと、僧俗縁故方々の支援を賜り設置された。 門の奥には納骨堂（昭和４６年（1971））があり、広く十方有縁無縁の遺骨をおさめている。

開山 寂室禅師が手ずから植えられたという霊楓で、秋には重く深みのある赤色に紅葉し、境内を彩る。現在のものは苗を植え継いだ三代目と言われている。

当山の住職が居住される小方丈、及び修行道場である。永和３年（1377）一溪禅師（いっけい）により大寂塔の守塔寮『考槃庵（こうはんあん）』として開かれ、応永２１年（1414）足利義持公（よしもち）に扁額を賜り『含空院』と改名された。 正保４年（1647）如雪文巌禅師（じょせつぶんがん）により復興されたが、老朽により平成２８年（2016）に浄財を募り新築された。 なおその折、旧含空院は解体・修復され、広島県の神勝寺境内へ移築されている。

昭和１０年（1935）改築。含空院に隣接し、本山法要時に賓客を接待する客殿である。 名前の由来は「経典は月を標ずる指の如し」という語からの引用と言われている。 鈴鹿の山々を借景とし、青苔にサツキと紅葉が四季を彩る含空院庭園、眼下に愛知川の清流を望む佳景である。

含空院に付随する庫裡であり、修行道場。看板の『専門道場』とは「『禅』を専門に学ぶ道場」の意味。 修行僧は、禅堂にてひたすら修行に専念する者（堂内）と、庫裡において炊事や寺務にたずさわりつつ修行に打ち込む者（常住）に分かれており、あわせて「僧堂」と呼んでいる。 近年出火により焼失しましたが、各方面よりご支援をたまわり、平成２７年（2015）に再建されました。

当山縁起にまつわる石。紅白の古梅を左右に配する。 奥の石碑には松尾芭蕉の「こんにゃくの刺し身もすこし梅の花」の句が彫られているが、永源寺とこの句に直接の関係はない。 当寺発祥と言われる『永源寺こんにゃく』にちなみ、近年句碑の寄贈をいただいたものである。

かつて寂室禅師の時代に「白い鹿があらわれて遊んだ」という言い伝えがある。

参道からくぼんだ石垣の奥は自然の洞穴になっており、涼しい風が吹き出てくる。天然のクーラー。 安全のため石垣でふさがれており、洞穴に入ることはできません。

毎年５月に、寂室禅師の生誕を祝い茶道各家が集う『奉賛茶会』が催される。その折、開山さまへお茶を奉納する「献茶式」にひきつづき、一年間使用した古い茶筅を供養し、この塚に納める。